引用:
悪女は砂時計をひっくり返す
あらすじ
売春婦だった母が伯爵と結婚し貴族の一員となり生活が一変した「アリア」。 妹の「ミエール」によって母が殺され…自分も殺されかけたが、死の直前に砂時計のおかげで過去へと戻ることができた・・・! 「アリア」は妹を超える悪女になって「ミエール」に復讐することを決意したがーー!
本文
『式がすべて終わりました。 みんな解散してください。』
「あの人があの噂の悪女? 印象があまりにも違わない?」
「しかも彼女が投資者Aどって? 悪女って噂はいったいどこから流れてたの?」
「誰かが悪質な噂をわざと広めたんじゃ···」
アリアを見て皆ひそひそ話をしている。
「早く席を立った方がいいと思うわ。」
周りに好き勝手言われてるのを横目に母に促され、アリア席を立った。
(アース···久しぶりにお話ができると思ったのに。)
その時、
「申し訳ないですが、お嬢様は私と先約があります。」
いつの間にかアースが真後ろに来ていた。
「皇太子様と先約だなんて! 早く行ってらっしゃい! 」
「先約なら···仕方ないですね。」
興奮する母と少し残念そうなサラに見送られ、その場を離れた。
ーーー・・・
二人は、アースがアリアに皇太子だと告白した時の邸宅に来ていた。
(再び現れたアースの顔を見ると、思わず安心して···説明せずに来てしまったわ。)
「気に入らないですか? 馬車を見てじっとしていらっしゃるので。」
「いえ、少し考え事が…。」
(あれ、よく見ると…。)
食器や周りを見渡し、前に来た時よりもセンスが良く、全体的にきれいになっていることに気がつく。
「前と雰囲気が少し変わったようですね。」
「新しくしてみました。お嬢様には似合わないような気がしまして。これからもこうしていらっしゃると思うので、お嬢様に似合う所にならなければならないじゃないですか。」
(今日に限ってアピールが積極的ね。)
「私に正体を隠していましたね。」
「···必要性が感じられなかっただけです。別に 聞きもしなかったじゃないですか。 」
(これは言葉遊びみたいなものね。 私もアースがピノヌア・ルイだと知った時は、かなり衝撃が大きかったから。)
「それでは、もう気になることは全部聞いてもいいですか。」
「そうですね。」
「…お元気でしたか?」
「はい?」
「考えてみればそうではありませんか。 お嬢様が投資者Aだったなんて・・・私よりももっと忙しかったのではないかと、急に心配になりました。」
「いいえ、私はせいぜい手紙を読んで返事を出すくらいですから。 私の心配をしてくださったんですか? ありがとうございます。むしろ私よりもアース様の方が…。」
「お嬢様に心配されると、何だかもっと苦労したくなりますね。」
「貴族会議で忙しいのにそんな冗談を言うなんて、思ったより余裕がありそうですね。」
「しまった、申し訳ありません。大丈夫です。私はお嬢様が思っているほど弱くないです。」
アースは続ける。
「貴族会議といえば···公女のことですね。 そう考えると、公女と婚姻までも考えていたのに···」
「え!?」
「今は違います。 しかしあの時は生き残るために貴族派に屈する覚悟もあったのです。事実、幼い頃にひどい目にあってからは、計画を立てなければならないという強迫観念に襲われていました。だから、少しでも間違えると、どうにか生きる方法だけを急いで手に入れるようになったのです。今考えると惰弱極まりません。それでお嬢様に初めて会った時、カジノの噂が広がったという話を聞いてからは···どこかまた間違ったのかという不安が先走ったのです。」
(···アースは今、私に謝っているんだな。)
「今度こそは死ぬかもしれないと、そんな考えで初めて会うお嬢様に接してしまいました。ただ今になって理解も容赦も求めるには申し訳ないですが···分かっていただけたらと思いました。」
(私も何気なく、慎重に未来を流したのは同じだよ。 私の一言がそんなに誰かに影響を及ぼすとは知らなかったから···。死にたくないという切実さは今の私にはあまりにもよく知っているから。)
「大丈夫ですよ。アース様。」
「代わりに公女が何か企んでいるようですが···。」
「心配ですね。」
「もう少し私を信じてください。私はチャンスが来たら逃さない人間です。 そのすべての機会はお嬢様が私に作ってくれたことと同じです。」
そしてアースは跪き、チューリップの花束を手渡した。
「ですから···そんなあなたに正式に交際をお願いしたいと思います。いつもお嬢様とはお会いできても、花束しか用意できないですね。 でも、これを受け取った後、正式に伯爵家にきちんと挨拶しに行きます。今伝えなければより遅れると思い、性急になってしまいましたが、どうかご了承ください。」
(「受け取った後」なんて···私がもらうのが当然のように自信満々じゃない?勿論、私も断るつもりはないけど。)
アリアはにっこり笑って答えた。
「ええ、いいですよ。しかし、『今度』ではもう少し華やかで雄大な所が良いですね。 一生に一度じゃないですか。」
「許可さえもらえるのなら、正式なプロポーズは帝国全部を使うことがあっても行きましょう。」
二人は心から幸せそうに笑い合った。
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