引用: 悪役の救い手
(本文)
おでこにキスされ、赤くなりうつむくジェイを見て、アゼフは満足そうに微笑んだ。
ジェイ「アゼフ・・・私は・・・。」
アゼフ「今は何も言わないでください。ただ・・・
前のようにきれいに笑ってください。」
愛しそうにジェイの髪をなでながらつぶやくアゼフ。
(彼は何も言わないでくれと言ったが、すべての事実を告白しなければならないという気がした。
今この瞬間が過ぎたら、取り返しがつかないほど、彼への思いが大きくなりそうで・・・。
紋章が・・・運命を持った神の紋章が・・・。でも私はあなたを愛しています。紋章が消え、あなたが許すなら永遠にあなたの側にいたい。話さないと。どうにかしてこの心を・・・。)
彼を傷つけると分かっているが、自分の心をこれ以上押し込めることができないと、ジェイは意を決して全てを打ち明けようとした。
ジェイ「アゼフ、私は・・・!」
公爵(父)「ジェイ!?」
突然の声に驚くジェイとアゼフ。
ジェイ「お、お父さん!」
アゼフ「公爵様!」
公爵はジェイの隣にいるアゼフに気が付き、近づいてくる。
アゼフ「あ、こんにちは。」
公爵(父)「・・・ランデル卿。君は今日休暇を取ったと聞いたが、この時間に私の娘といたのだな。」
アゼフ「はい、公爵様。エルジェイさんが乗馬が苦手というので、私が教えている途中でした。」
公爵(父)「そんなはずが・・・ジェイは幼い頃から馬を・・・。」
公爵は昔のジェイを思い出し、思わずジェイを見たが、ジェイは気まずそうにうつむく。そんなジェイを不思議そうに見る公爵。
公爵(父)「まあ、君の乗馬の実力に比べると、下手だといえる。とにかくお世話になったね。無事に娘を送ってくれるなんて、ありがたいな。お礼がしたいけど、今日は遅すぎるから、今度家に招待するよ。」
アゼフ「僕がエルジェイさんをつかまえて、時間が遅くなってしまったんです。どうか叱らないでください。」
公爵(父)「はは、そんなはずがない。じゃ、私はこれで帰るから、君も気を付けて帰りなさい。ジェイ、もう入るよ。」
ジェイ「はい・・・すぐに行きます。ランデル卿・・・それではさよなら。」
帰ろうとしたアゼフだが、ジェイが何か言いたそうにしていたのを思い出し、振り返り、ジェイの後ろ姿を見つめる。
(もう・・・認めざるを得ないと思う。)
(汚くて、険悪な世の中で、あなたの側で唯一私は息ができる。)
(あなたの目を僕のすべてで満たしたい。)
(君の側にいられる人間は僕だけだ。エルジェイ。ぼくがそうさせてやる。)
(誰にも・・・あなたを奪わせない。)
最初はジェイのことが気に入らなくて、自分に心酔させようとしていたアゼフ。
いつの間にか、ジェイに心が傾き、本当の意味でジェイを自分のものにしたいと考えるアゼフは、自分の中にある黒い独占欲を隠しながら、帰路につく。
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公爵(父)「アルハテケロだな、珍しい名馬だよ。」
ジェイ「すごくきれいでしょ?侯爵様がプレゼントしてくれました。」
嬉しそうに話す娘を見て、複雑そうな顔をする公爵。
公爵(父)「・・・手のけがはどうしたんだ?」
ジェイ「あ、このけがは大したことなくて、少し切っただけです。」
公爵(父)「そうか、気を付けないと。どれどれ、見せてみなさい。」
ジェイ「いいえ、軽い傷なのですぐに治るでしょう。」
手をけがした時のことを覚えていないジェイは、公爵を避けるように慌てて手を隠した。
公爵(父)「ジェイよ、実は私も君にプレゼントがあるんだよ。」
そう言って公爵は懐から、透明な石がついたネックレスを取り出した。
ジェイ「何ですか・・・これ?」
公爵(父)「神石でできたネックレスだよ。君の伴侶に会うと、その神石が紋章の色に変わる能力を持っている。」
公爵(父)「彼に会うのはもうやめなさい。」
ジェイにネックレスを渡しながら、残酷なことをいう公爵。
公爵(父)「もっと近くなる前に、本当の伴侶を探さないといけないんじゃないか?」
公爵にそう言われ、ジェイはショックを受け、思わず固まってしまった。