引用:
お父さん、私この結婚イヤです!
あらすじ
皆に嫌われる悪女「ジュベリアン」。 愛した恋人からも、たった一人の家族であるお父さんにも捨てられ、寂しく死んでしまった悪役…。 そんなジュベリアンに生まれ変わったって? こうなった以上仕方ない。 お父さんのお金を思う存分使って、派手なお嬢さんライフを送ろうとしていたのに、 サイコパスな皇太子が私の結婚相手だなんて! それなら方法はたった一つ、契約恋愛だけ。 その相手はお父さんの教え子がいいだろうと結論を出した。 その男が皇太子であることも知らずに…。
本文
「ちょっと待ってください!」
「むぐっ!」
ジュベリアンはそう叫ぶと慌ててマクスの口を両手で抑えた。
そして声を潜めて続けた。
「そんな重要な話を広場のど真ん中で持ち出してどうするんですか!」
ジュベリアンとマクスが密着しているので、周りの人達の注目の的になっている。
ジュベリアンはカーッと赤くなり、マクスを連れて馬車へと戻った。
馬車の中で一息つき、ジュベリアンが言った。
「実は…あの時マクスが黙って出て行ったので、当然拒否だと思いました。なぜ考えが変わったのか聞いてもいいですか?」
(考え方が変わったわけではない。 あの瞬間すぐに答えられなかった訳は…………君が嫌いだと言っていたドSの暴君が……「俺」だから。今のところ正体は語れないし…。)
マクスは遠い目をしながらどう言おうか考えている。
(言えない事情があるのかな?)
黙っているマクスを見てジュベリアンは話を変えた。
「ところで何の用でアーケード通りに来たんですか? 買い物に出たものにしては荷物がなさそうだけど···。」
「それで?俺は理由なく外出してはいけないのか?」
(!?!?!そのまま言ってくれれば良いものをそんなに強く出ることはないじゃない。さっき手伝ったのに…もう!)
ーーー・・・
今朝。
『主君。ただ今入手した情報をご報告申し上げます。数日後のティーパーティーにフロエン公女が参加する予定ですが、ミハイル卿もそのティーパーティーに参加するそうです。』
『…どうして奴が出席するんだ?』
『そうですね。別れた恋人と席を作ろうとするのは、普通に考えると未練が残っているということではないでしょうか。』
『…ちょっと出かけてくる。』
『あら、今フロエン公女はお屋敷にいないと思いますが···。』
ーーー・・・
それが今朝のこと。
マクスは噂を頼りに、ここまで追いかけてきたのである。
(ミハイル···!あいつがティーパーティーで何かする前に防がなければならない。本当に俺が前に出ざるを得ないな! 契約恋愛を始めてパートナーになって、あいつが近づけないようにしないと···!!)
マクスは黙ったまま凄まじい表情になっているのでジュベリアンは冷や汗をかく。
(?????何を考えて表情があんなに険しいのかしら?)
「あの。それでは契約について話すことにしましょう。 条件は···。」
「その前に聞きたいことがある。どうして···俺に···恋愛を提案したんだ?」
「それはあなたが…家もないし、お金もないけど、お父さんに信用された弟子だから?」
「!?」
(たかだかそんな理由で俺と恋愛をしようとするのか??俺が好きだからではなく···師匠の弟子だから···。 何だよ、それ···。今回も俺一人だけが真剣だったのか···!)
落ち込んだ様子のマクスを見て、ジュベリアンは恥ずかしそうに付け加えた、
「そして···もう一つの理由を言うとですね。 今私が知っている男性の中で、こんなお願いをするほど楽な関係の人が···あなただけなので。」
「そうか、そうなんだ…。それならいい。」
それを聞いたマクスは恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうに笑った。
滅多に見せない素の笑顔にジュベリアンもつられて顔が赤くなる。
(たとえ性格が悪くても、確かに顔は私の好みなんだよね。)
「それでは条件について話してみましょう。 報酬はいくらがほしいですか。」
「報酬?報酬はいらない。前にけがを負わせたことを返そうとしているだけだから。」
しかめっ面をしながらマクスは言ったが、ジュベリアンは感動してマクスの手を両手で包み込んだ。
(おお!天使なの?? しかめっ面なのにこんなに優しいなんて?!)
「では、代わりにお礼にいつでも宿泊提供しますので、他に必要なものがあれば何でも言ってください!」
「あ···分かったから、ちょっとこの手を離して話そう!」
「何言ってるんですか!あなたと私、これからは恋人の演技をしなければならないのに! 適当にされたら困ります!」
「!!?」
(このおもしろくもない芝居に、私の命がかかっているんだから!)
「契約恋愛をすることにした以上、これからは手をつないで! 腕も組んで!私の名前も優しく呼ばなければなりません! 分かりましたか?」
(よし···よし! やるよ!やるよ! まだ心の準備が···。)
マクスはジュベリアンの気迫に押されしどろもどろになっている。
「…あ!そういえば私たち、まだご挨拶していませんね。 私の名前は···」
「ジュベリアン。君の名前くらいは前から知っていた。」
(この人、私の名前を知っていながら、 今までお前って呼んでたの…?)
(なんでこんなに手をもみもみさせるんだ。 おかしくなりそうだ…。)
「あなたのお名前は···マクス···ですよね? 前に父が呼ぶにはそうだったと思いますが。」
「マクス………そうだ。」
ジュベリアンはうんうんと満足そうに頷いた。
(いい名前ね!大きくなる人ね。 顔もハンサムだし、やっぱり気に入った。)
「いい名前ですね! ご両親があなたが大きい人になるように付けてくださったようですね。」
マクスはジュベリアンの言葉に嬉しそうに笑った。
「それでは、契約書から始めましょうか?」
「『契約書』って…あえてそういうのを書かないといけないのか? 俺は確かに対価を受けないことにしたぞ!」
ジュベリアンが急に現実的な話をし始めるのでマクスはちょっと不機嫌になった。
そんなマクスを憐れむように見るジュベリアン。
(お父さんは弟子にこんな常識的なことを教えずに何をされたの?)
「よく聞いてください。すべての契約関係では、必ず契約書が必要です。 私たちの条件を証明しなければ、あなたを利用して勝手にされてしまいますよ? しかも、悪いことをしておいて全てあなたの責任に問われることもあるでしょうし。」
長々と説明したが、マクスは真っ直ぐジュベリアンを見て言い放った。
「でも、お前はそうじゃないだろ。」
「えっ?」
マクスの言葉にジュベリアンは目を丸くした。
(これまで悪女として生きてきたし、当然のように皆が私を嫌ってきた。
だからすべての罪が自分のものと誤解され···私が死に瀕した時も、誰も信じてくれなかったのに···。
でもこの人は···私を信じてくれるのね···。)
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