引用:
悪女は2度生きる
あらすじ
謀略の天才、皇帝を作り上げる! ”お兄様が成功すれば、お前も成功するのよ” それを信じ、あらゆる悪事を企てた悪女「アルティゼア」。 しかし、彼女の兄への忠誠は裏切りとして返ってくる。 死を前にした彼女に手を差し伸べたのは宿敵であり、正義ある大公「セドリック」だけだった。 魔術で命と引き換えに18歳の自分に生まれ変わった彼女は、「セドリック」を皇帝にするために新たな人生を捧げることにするがーー
本文
リゼが扉を開け、ティア達はセドリックを迎えた。
「いらっしゃいませ。」
「ちょうどよいタイミングでしたね。」
「妃殿下が時間を合わせて準備されたんです。」
「茶菓子を持って来ました。 さあ、どうぞ。」
セドリックが二人に勧めるが、ティアは茶菓子を2つほどハンカチに包み、リゼに言った。
「リゼ、お盆を持ってきなさい。ティーカップとクッキーを移すわ。」
「…ティア?」
リシアが気を使って言った。
「あ…邪魔になったなら、私が退きます。」
「いいのよ。そうでなくてもやることがちょっとあるから。リシア、代わりにセドリック様にお茶を出してくれる?」
「妃殿下···どういうことかわかりませんが、私が出ていきます。ですからお二人は…」
「邪魔じゃないから大丈夫よ。」
「しかし殿下が…。」
「私が忙しい時に私の代わりにお客さんをもてなすのも侍女の仕事じゃない? 頼んだわよ。」
そしてセドリックに向き直り言った。
「いただいた茶菓子は、持って行って食べます。」
「あ…。」
「それでは失礼します。」
セドリックは何か言おうとしたが、それよりも先にティアが部屋を出ていってしまった。
ティアの後ろ姿を呆然と見つめるセドリックとリシア。
「やっぱり···私は何か間違えたんだろうか?」
「私は分かりません。」
「この何日かの間にティアとちゃんと話をした気がしない。 こういうことは何回目だろう。」
「悩むのではなく、妃殿下を追った方がいいんじゃないですか。」
「…そうしよう。」
セドリックはティアがいる図書館のドアの前に立って考えていた。
(押し付ける侍女ができたせいなのか。それとも、自分も知らないうちに何かがっかりするようなことでもやってしまったのか···。)
ーーー・・・
ティアは通路で本を探していた。
するとリゼが躊躇いがちにティアに話しかけた。
「奥様、ご主人様が…。」
「お邪魔ですか?」
「そのようには言っておりません。」
「ティア…。」
セドリックはティアの目の前まで歩いてきた。
「何かおっしゃりたいことでもありますか。」
「話すことがなければあなたのティータイムに割り込んではいけませんか。」
「敢えてそうする必要がないことはないですね。」
「ティア…。」
「おっしゃることがなければ、私は少し仕事をしなければなりませんので。」
「ティア。私のことを見てください。」
ティアはそう言われてようやくセドリックと目を合わせた。
しかしまたすぐに目を伏せてしまった。
「何か用件があるなら聞きますのでおっしゃってください。」
「私はただ、あなたと話しをしたかっただけです。 さっきもそうですし、今も。」
「談笑は、後で時間がある時にしましょう。 私を甘やかす必要はありません。 おやつも、最近リシアがしっかり気遣ってくれています。」
「···分かりました。 これ以上邪魔しません。」
「すみません。」
「明日の午前早く狩りに出かけます。」
「はい、知ってます。 新年の行事ですよね。雪が降った直後でとても危険だそうですから、気をつけてください。」
「…もっと他に言う事がありませんか?」
セドリックはそう言うとティアの手を握ろうとした…が、寸前でティアにさっと避けられてしまった。
セドリックの顔が曇る。
ティアの頑なな態度にセドリックは少し怒ったような顔をしたが、諦めたようだ。
「…分かりました。」
「はい。」
「明日未明に出発するので、多分挨拶する時間がないと思います。何日か不在ですが、ここをよろしくお願いします。」
「はい。心配せずに、行ってらっしゃいませ。」
セドリックは部屋を出て行った。
一人になったティアは、無言のまま片手で顔を覆った。
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