引用: 悪役の救い手
(本文)
ジェイは真っ白い世界を歩いていた。
ジェイ「うっ・・・。」
突然激しい頭痛に襲われ、その場にうずくまってしまった。
頭を押さえ、落ち着かせるように深呼吸をして、目を開けると、そこには幼い頃のアゼフが裸足で立っていた。
ジェイ「ア・・・アゼフ?こんな寒い日に、なんでそんな格好で・・・。あっ!だめ!」
ジェイは白い息を吐きながら黙っているアゼフに、近づきながら声をかけた。
そしてアゼフに触ろうとした途端、アゼフは消えてその場からいなくなってしまった。
ジェイ「ふう・・・違う。これは全部夢よ。そうよ、これが現実のはずがない。でも・・・。なんでこんなに不安になるんだろう・・・。」
その場にうずくまり、ジェイは涙を流しながらそう呟いた。
商人『こら!そこのガキ!』
急に鋭い声が聞こえ、顔をあげると、薬草を盗んだアゼフが商人に追われているのが見えた。
ジェイ「アゼフ・・・?」
ジェイは涙を拭きながら、吹雪の中、裸足で逃げるアゼフの後を追った。
ジェイ「ちょっと・・・!ちょっと待って!」
(違う。何か・・・おかしい。私が読んだ小説ではこんなに荒い吹雪は吹いていなかったのに・・・。)
吹雪の中、アゼフは一軒の家にたどり着き、玄関を開けたとき、刃物を持った男がアゼフを掴んでいるのが見えた。
ジェイ「あ、あなたたちは誰!?」
強盗『おお~。貴様、この家の息子だな?ちょうどいいところに来てくれたな。この寒い日に、お前を捕まえに行かなければならないところだったよ~。』
少し笑みを浮かべながらそう言う強盗の後ろには、血まみれのアゼフの母が倒れていた。
アゼフ『お母さん!だめ!放してよ!』
強盗『いやはやうるさいね。静かにさせよう!』
ジェイ「だめ!!」
制止むなしく、強盗はアゼフを刃物で刺してしまった。
ジェイは叫んだが、ジェイの声は強盗達には届いていないようだった。
アゼフは手をだらんとさせて、ぐったりしてしまった。
強盗『早くここから出よう。雪がもっと激しくなる前に・・・。』
そう言うと、ランプを床に叩きつけ、瞬く間に辺りは炎に包まれた。
強盗『大丈夫かな?あの子、まだ息があったようだけど・・・。』
強盗『お前ならあの炎の中で生きられるか?余計な心配してないで、早く行こう。』
強盗達は出ていき、ジェイは炎の中アゼフに駆け寄った。
ジェイ「アゼフ!だめ!死なないで!どうか・・・アゼフ!これは夢よ!だから今すぐ覚めて!この夢から起こして!」
アゼフの死は、深い闇の記憶の片隅から、この状況を思い出させた。
それが彼が経験すべき本来の運命だったと・・・。
炎が燃え盛る中、アゼフを抱きしめて泣いていたジェイは、足音に振り返る。
そこにはなんと、幼い頃のジェイが立っていたのである・・・。そしてこう言った。
ジェイ『変えない?この子の運命。』