引用: 悪役の救い手
(本文)
アゼフ「あなたにあげるプレゼントを用意したのですが、忘れるところでした・・・。」
ジェイ「プレゼント・・・ですか?」
アゼフはジェイに帽子を被せ、顎ひもを結ってあげると、満足そうに頷いた。
アゼフ「さあ、いいですよ。きれいですね、ジェイ。よく似合うと思ったんです。」
ジェイ「私も・・・プレゼントがあります。あの、これ・・・。」
ジェイはきれいに包装された長方形の箱をアゼフに差し出した。
アゼフ「これは・・・私に?」
ジェイ「今日は乗馬大会が開かれるじゃないですか。必要になるか分からないけど、アゼフに似合うと思って・・・。」
アゼフ「とても気に入りました。手袋が欲しいと思ってたところなんです。勝利の女神が私に微笑んだので、私が必ず勝利をもたらします。ジェイ、ありがとうございます。」
プレゼントは、アゼフの瞳と同じ、ブルーの手袋だった。
アゼフがとても嬉しそうにしているので、ジェイまで嬉しい気持ちになった。
ジェイ「私も・・・ありがとうございます。」
(こんなに喜ぶなんて思わなかったのに・・・まるで子供みたい。)
ジェイ「あ、そうだ。ところでアゼフ。さっき手袋をつけていませんでしたか?」
アゼフ「いえ・・・。どんな手袋ですか?」
ジェイは変だなと思いながらも、アゼフの嬉しそうな顔でそんなことはすぐ忘れていった。
―――・・・
会場に着き、周りを見渡すアゼフとジェイ。
ジェイ「もうあんなにも人が集まっていますね。」
アゼフ「ジェイのおかげでかなり遅くなりましたからね。」
いじわるそうに言うアゼフにジェイは赤くなる。
アゼフ「わあ~、空を見てください、ジェイ。幸い天気には恵まれましたね。」
アルモア「侯爵様、予定より少し遅れて到着したため、急いで用意しなければなりません。もうすぐ乗馬の試合が行われますから、まずお着替えからされるのがいいかと・・・。」
ジェイ「分かりました。そうしましょう。私も早く着替えてきます。アゼフ、また後で。」
アルモアの急かすような言葉に、ジェイは素直に従い着替えに向かったが、アゼフは眉にしわを寄せた。
アルモア「侯爵様?僕たちも早く・・・。」
アゼフ「本当に君は騒いで邪魔をするところが最高だ、アルモア。」
アゼフの嫌味にアルモアの頭には???が浮かんだのであった。
―――・・・
乗馬のための服に着替えたジェイ。
シア「緊張するんですか?お嬢様。」
ジェイ「緊張しないはずないわ。」
(実は生まれて初めての経験なのに。小説の中ではリサがこの大会に出ていたし・・・。私がリサより上手にできるかな?今日の為に暇がある度に練習はしたけど・・・。)
シア「ええ~大袈裟ですよ。お嬢様の乗馬の実力はお墨付きなのに。」
(ハハハ、本当のエルジェイなら実力はあるだろうな・・・。)
ジェイはシアの言葉に、苦笑いを浮かべながらそう思った。
シア「コーディスのルールは大丈夫ですか?」
ジェイ「うん、計8人の本選進出者のうち、先に10周した者が優勝だよね。」
シア「そうです!最初はパートナーと一緒に出発しますが、5周以降は侯爵様が馬を降りて旗を持ってこなければならないので、お嬢様の実力を発揮できるいい機会ですね・・・フフフフ。」
(5周以降は私が一人で馬を走らせなければならないのね。)
ジェイ以上に張り切っている様子のシアに、ジェイは先が思いやられるのであった。
―――・・・
ファンファーレが鳴り響き、会場は熱気に包まれている。
アゼフ「ジェイ!」
(走るのはいいとして、アゼフが馬に乗り下りする前に、私がしくじったらどうしよう?この前みたいに、彼がケガでもしたら・・・。)
ジェイは心を落ち着かせるように深呼吸してから、アゼフの後ろに飛び乗った。
ジェイ「やっぱりアズよりは、アゼフが乗っていたジェイドの方がよかったでしょうか?」
アゼフ「かまいませんよ。ジェイはアズと練習したはずだし、慣れている方がいいです。無理しないでくださいね。あなたがどれだけ早く走っていても、その前に私が迎えに行きますから。」
ジェイ「実は今とても緊張しています。もしこの前みたいにミスしたら・・・。」
ジェイはうつむいて、不安に思っていることを口にした。
アゼフ「そんなに負担に思わないでください。あなたが一緒にいる以上、優勝は私たちのものです。」
司会進行『グリーン!アゼフ・ランデル!』
大歓声の中、アゼフとジェイのペアが呼ばれた。
アゼフ「じゃあ、行きましょうか?」
後ろを振り向いてそう言ったアゼフに、ジェイは力強く頷いた。